「ひじを伸ばして、まっすぐ手を挙げましょう。」
このような言葉を、担任の先生に言われた記憶はありませんか?
もしくは教員の方でしたら、一度は指導したことがあるのではないかと思います。
今回は、学校の授業で誰しもが経験する「手を挙げること」について、考えていきたいと思います。
挙手の仕方をそろえることの妥当性
学校という場所は多くの人が集まる公的な空間です。
「みんなにとってこの教室が、家のような居心地の良い場所になってくれたらいいな、安心できる場所であってほしいな、と思っている。ただし、“家のような場所”であって、“家”ではない。たくさんの人が集まる公の場所だということを忘れないでいてほしい。」
私は日常的に、子どもたちにこのような話をしています。
公的な空間である学校には、ある程度の規律が必要です。自分の思いのままにして良い部分と、統一した方が良い部分があります。
全員の手がピシッと挙がることで、学習へ向かうためのほどよい緊張感が生まれたり、休み時間との区別がはっきりしたりする、と考えることもできます。
挙手の仕方も規律の中のひとつである、という考え方に基づくと、挙手の仕方をそろえるということは妥当であると言えます。
挙手の仕方はそろえなくても良い
挙手の仕方をそろえることは妥当だという話をしましたが、結論から述べると、実は挙手の仕方は一律でなくてもよい、という場合があるのです。
筑波大学附属小学校の田中博史先生は、挙手の仕方という学習規律について、次のように述べています。
一律に「腕を耳に当てて指先をピンと伸ばしなさい」と指導するのではなく、子どもたちの不安げな手の挙げ方は自信のバロメーターだと思えばいいのです。
田中博史,『子どもが変わる接し方ー9割の先生が気づいていない学級づくりの秘訣ー』,東洋館,2020(初版第16刷発行)
大人も子どもも、自信の有無は行動や仕草に現れることが多いのです。
自信があることや慣れていることに対しては堂々と振る舞ったり、はきはきと発言したりできますが、自信がないことに対しては、どうしても消極的になったり、つい声量が小さくなったりしてしまうものです。
そのような子どものありのままの姿を受け入れることも大切なのではないかと思います。
田中先生の言葉はこのように続きます。
手を真っすぐに挙げているのは、自信のある子どもです。手が途中までしか挙がっていないなら、それは自信のない子ども。手は途中まで挙がっているけれど顔が下を向いているのは、できれば指名してほしくない子どもです。
田中博史,『子どもが変わる接し方ー9割の先生が気づいていない学級づくりの秘訣ー』,東洋館,2020(初版第16刷発行)
授業中、必死で考えている子どもに、挙手の仕方まで負担をかけることはないと思うのですがいかがでしょうか。
教師は普段、授業への臨み方や授業中の発言、ノートの記入内容、テスト、宿題などさまざまな方法で、子どもたちの学習に関する実態を把握しようと努めています。
それらだけでなく、挙手の仕方ひとつをとっても、児童理解(子ども理解)につなげることができそうです。
「さっきの問いでは途中までしか手を挙げていなかった子どもが、今回の問いでは教師の目を見てまっすぐ手を挙げている」のなら、ぜひその子どもの発言の機会を確保してあげたいものです。
場合によっては一律でなければならない
挙手の仕方は自信のバロメーターであり、一律に指導しなくても良いのではないか、という視点で話を進めてきました。
しかし、そうではない場面もあります。
言葉が二転三転するような形になりますが、挙手の仕方を一律に指導すべき場面も存在するのです。
ここでさらに、田中先生の言葉が続きます。
しかし、人数チェックなどの場面では、話は変わってきます。
田中博史,『子どもが変わる接し方ー9割の先生が気づいていない学級づくりの秘訣ー』,東洋館,2020(初版第16刷発行)
たとえば、「教室の掃除をやりたい人?」「廊下の掃除をやりたい人?」と言って手を挙げさせるとき、子どもが途中までしか手を挙げていなければ、数える側はチェックできません。こういった場面では自信の問題ではないので、「数える側の気持ちになりなさい」と、私もきちんと指導します。
学級によっては、30人以上の子どもたちがいます。実際のところ、途中までしか手を挙げていないと、確かに数えにくい場合があるのです。
もしチェックできていなかった場合、もう一度最初から数えることになってしまい、手間が増えてしまいます。
また、「どれかに必ず挙手しましょう」というパターンではなく、「希望する人は挙手しましょう」というパターンも多くあります。前者の場合であれば、数え終わった後に「数が合わないから、もう一度最初から確認します」と対応できます。しかし後者の場合はそうもいかないのです。「○○の当番を希望して手を挙げていたのに、自分の名前が入っていない」というように、子ども自身が損をしてしまう可能性もあるのです。
①それぞれの挙手の仕方が許容される場面と、そうではない場面があるということ
②許容される場面と、そうではない場面がある理由
以上の2点を、普段から子どもたちに周知しておく必要があります。「なぜなのか」という理由までしっかりと伝えることで、子どもたちも納得感をもって過ごすことができます。
まとめ
今回は、学校生活の中での挙手の仕方について考えました。
○子どもの手の挙げ方は、自信のバロメーターだと捉えることができる。
○人数チェックをする場合など、手の挙げ方を一律に指導すべき場面はある。
○場面によって挙手の在り方は異なっていても良い、ということを教師と子どもで共有する。
当然のことながら、実際には発達段階や学級の実態に応じて、また指導者と子どもたちの価値観のすり合わせによって、その集団の中でのベストな在り方を探っていくことが求められます。
私自身も、最善を探り続けていきたいと思います。