さん?くん?ちゃん?先生によって違う子どもの呼び方を考察する。

学校教育

みなさんは子どものころ、担任の先生にどのように呼ばれていましたか?
「くん」「ちゃん」「さん」などがありますが、当時はそこまで呼ばれ方を意識してはいなかったのではないかと思います。

小学校の教員になり、子どもの呼び方について考えることがよくありますし、実際のところ、先生によって子どもの呼び方が異なっています。
今回は、そんな「子どもの敬称」について考えてみたいと思います。

先に述べておきますが、この記事は「この敬称を用いるのが正しい」と決定づけるものではありません。
いくつかの敬称を取り上げてその意味合いを比較することで、主に教育現場における子どもの呼び方について一緒に考えていきたい、という趣旨になっています。

教育現場の特性から敬称の必要性を考える

敬称について話を進めるうえで、まず敬称を付けるか付けないか、というところから始まります。
敬称を付けないとなると、呼び捨てで呼ぶ、もしくはあだ名で呼ぶ、ということになるでしょうか。
ある子どもが相手の心身を傷つける行為などを行っていた場合に、一刻も早く制止するため敬称を省いて名前を呼ぶというケースは考えられますが、普段の学校生活の中ではなかなか考えにくいのではないかと思います。

敬称を用いる必要性を、2つの点から考えてみたいと思います。

①教師は子どもの模範である
教師の言語感覚は、子どもたちに大きな影響を与えます。それは、「担任の先生によってクラスのカラーが違う」という現象からも想像できるかと思います。誰が真似しても問題ない、という言動が求められる存在ですから、何か敬称を用いることが望ましいと考えられます。

②教師には公正さが求められる
公正であることとは、偏りがないことを意味します。「一部の子どものことは親しげにあだ名で呼ぶが、その他の子どもに対してはそうではない」という状況では、子どもたちからはもちろんのこと、保護者からの不信感にもつながります。

また学校によっては、いじめやからかいの要因になることを懸念し、子どもたちに対して「あだ名で呼び合わないようにしよう」と呼びかけているところもあります。あだ名で呼び合うことは親密性の表れであると捉えることもできますが、確かにあだ名が原因で子どもが苦痛を感じる事態が生じてはいけません。その可能性を減らすという意味においては、あだ名を推奨しないという方針も理解できるかと思います。

これらのことから、教育現場においては敬称をつけて子どもを呼ぶというのが一般的であろうと考えられます。

代表的な敬称「くん」「ちゃん」「さん」

敬称を用いるのが望ましいという出発点に立ったところで、今回は代表的な敬称である「くん」「ちゃん」「さん」を取り上げることにします。

論を進めるにあたって、第 1415 回放送用語委員会「日本語のゆれに関する調査」の報告を参考にしていきたいと思います。
「なぜ放送用語委員会の話が出てくるの?」と思った方もいらっしゃるかと思います。
確かに、教育現場放送業界は中身が全く違いますから、ここで取り上げるには見当違いのように思われるかもしれません。
ですが、放送業界における「あらゆる人に対して的確に情報を発信する」という側面は、今回の話を進めるうえでかなり重要な役目を果たします。

なぜなら、放送業界で使用される言葉には明確な定義付けがなされており、その言葉の定義や用い方には世間一般からの“ある程度の了解”が得られているからです。
例えば、自分が誰かに「◯○さん」と呼ばれたとき、「なんて乱暴な呼び方をするんだ!」と受け取る人はほとんどいないと思います。つまり、私たちはマスメディア等を通じて、「くん」「ちゃん」「さん」に対し、ある程度共通の感覚を共有しているはずなのです。

第 1415回放送用語委員会の報告の中には、以下のような見解が示されていました。

⑴敬称は原則として「さん」あるいは「氏」。複数の場合は「〜の各氏」など。

⑵学生や未成年者(男)には「君」を付けてもよい。また、学齢前の幼児には「ちゃん」を付ける。次のような場合は、小学生についても「ちゃん」を適宜使ってもよい。
 1 本人が痛ましい事件に巻き込まれた場合(誘拐、交通事故など)。
 2 愛らしさを特に強調したい場合。

NHK放送文化研究所,『NHK ことばのハンドブック第2版』,NHK出版,2005

原則として「さん」としながらも、性別や年齢によって「くん」「ちゃん」を使用してもよいことになっているようです。

教育現場に置き換えて考えると、
公共性をもたせる敬称としては「さん」を使用するが、性別という観点や子どもに対する親しみの意味を含めると「くん」「ちゃん」を使用することも考えられる。
と言えるでしょうか。

また、「◯◯君」という敬称について調べていると、興味深い記事に出会いました。敬称のルーツは奥が深いですね。(記事はこちら→「さん。くん。ちゃん。何て呼ばれたい?」-あらたにす

私が「さん」を使う理由

私は子どもの名前を呼ぶとき、「さん」を使用しています。
理由は大きく2点あります。
1点目は、公的な場所であることを意識づけたいからです。これは、前回の記事で解説した「学校は公共の場所である」という考え方を拠り所としています。(記事はこちら
実際のところ、休み時間には「○○くん」「○○ちゃん」と呼ぶことも稀にあるのですが、授業中は必ず「○○さん」と呼びます。
そこには、「授業はオフィシャルな場である」という私なりのメッセージがあります。

2点目は、一律に性別で敬称を区別することが難しい場合が想定されるからです。
近年、多様性LGBTQという言葉が広く浸透してきました。その考え方に基づくと、本人が希望している場合を除き、「男の子だから」「女の子だから」という理由のみで敬称を区別することが難しいケースもあるのではないかと感じてしまいます。(私が慎重なだけなのかもしれませんが。)

私自身の中には、学級経営の一環として「さん」を使っていきたいという側面と、「くん」「ちゃん」を用いることで生じ得る不安要素を消去しておきたい、という側面があるようです。
年度初めに、「男子も女子も関係なく、全員さん付けで呼びます。」と伝えるのですが、学級によってはざわつくことがあります。子どもたちにとっては、「くん」「ちゃん」という敬称の方が馴染み深いのかもしれません。

まとめ

今回は、子どもの敬称について考えました。
教育現場に携わる方や、多数の子どもたちと関わる機会がある方は、どの敬称が正しいのかという視点ではなく、何を根拠にその敬称を用いるのか、という視点でぜひ一緒に考えていきましょう。

「さん」には公共性をもたらすという点において良さがあり、「くん」「ちゃん」は子どもに対して親しみをもち、心の距離感を近く保つことができ得るという点において魅力的です。

何より重要なのは、
そばにいる大人の言語感覚が、子どもに大きな影響を与えると自覚すること
子どもへの敬意(子どもの尊厳を守るという意味)を忘れないこと
だと思います。

大人の振る舞いは、少なからず子どもに影響を与えます。
私自身も、子どもたちへの言葉を絶えず振り返っていきたいと思います。

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